2012年6月16日土曜日

北大とJST、トンネル効果を利用した新型トランジスタを開発

JSTと北大の研究により、新型トランジスタが開発されたそうです。

このトランジスタは、現在主流のウェハ表面に100nm未満の精度で作られた、何層ものパターンを用いて生成されるものではなく、かなり大きな柱状のデバイスをシリコン基板上に作るもので、シリコン基板上にInAsという化合物半導体の芯を持つ柱を立てて作られるものです。

このトランジスタを用いて、現在のLSIと同じ程度の回路規模を実現するためには、柱の小型化が鍵になりますが、問題点はゲート領域を確保するためにある程度の柱の高さを確保する必要がある点です。

このトランジスタの動作原理は上記のリンク先の図2(d)に示されるように、ゲート領域の無添加InAsの伝導帯の静電ポテンシャルが変化することによってON/OFFの切り替えを行っています。

OFF状態
ゲート領域の伝導帯ソース領域の価電子帯よりも高いレベルにあり、ポテンシャル障壁によって電流は流れない状態になっています。
ON状態
ゲートに+電圧を印加した際にソースの価電子帯よりも下がって、ドレイン領域と同レベルになり、なおかつゲート領域とソース領域が、ごく薄いポテンシャル障壁を持つことによって、トンネル効果によりドレイン-ソース間の電流が流れます。
このため、柱を細くするのは問題なくても、柱の高さ低くしてゆくとスイッチとして機能しなくなります。

原理としては面白いと思いますが、実用化へのハードルは高そうです。

2012年6月9日土曜日

OPERAについて

CERNなどの研究計画で、CERNから発射したニュートリノをイタリアにあるOPERAと呼ばれる施設で到達時間を測定し、速度を求めるという実験が行われ、光速よりも速いという測定データが出たことを覚えているでしょうか?

その原因は、6月8日の朝日新聞夕刊によると、OPERA施設内の計時に用いられる信号伝送を行う光ケーブルの接続点で1.5mmの隙間があったためだそうです。

詳細を見ていないので推測ですが、仮にケーブルの光ファイバー同士を密着させるべき所が外れていた場合、光ケーブルから飛び出した信号が1.5mm先の光ケーブルにうまく入るかどうかが、まず疑問として浮上してきます。

一般的に光コネクタは精密加工されており、光ケーブル同士の接点で反射が起こらないように光ファイバのコア同士を密着させる機能を持っています。

緩みの原因が光コネクタへの挿入不良であった場合、受ける側の光信号が大きく減衰するだけでなく、空気中を経由することによる伝播時間遅延が発生します。

この条件で簡単に計算してみると

c=3×108m/sとしてL=1.5×10-2mの距離を進んだ場合を考えます。

t=L/c(sec)とすると、15/3×10-3-8=5×10-11secとなり、50psecとなります。

そうすると、OPERA側の時計は最も良い条件でも、本来の時刻より50psec遅れた時刻となっているため、光の速度とほぼ同じ速度で移動してきた粒子が、光よりも50psec早く到達したことになり、「光よりも速い粒子」が「発見」されてしまいます。

実際のところ光ケーブルが外れていたら、まともに観測はできないと思いますが、詳細はプレスリリースを待ちたいところです。

ちなみに、「超光速」を撤回=ニュートリノ再検証―機器に不備・国際研究グループという記事によると、GPS衛星からの信号伝播時間の遅れは1億分の7秒(7×10-8)、と上記の計算で求めた値よりも大きくなっています。

ケーブルの緩みなどを勘案すると設計した遅延時間よりも相当に大きくなっていたのでしょう。

参考

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